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2005年11月18日

#0019『東京物語』小津安二郎監督 1953年日本

tokyomonogatari_3.jpg

監督: 小津安二郎
製作: 山本武
脚本: 野田高梧  小津安二郎
撮影: 厚田雄春
美術: 浜田辰雄
衣裳: 斎藤耐二
編集: 浜村義康
音楽: 斎藤高順
 
出演: 笠智衆  平山周吉
    東山千栄子  妻・とみ
    原節子  二男の嫁・紀子
    杉村春子  長女・金子志げ
    山村聡   長男・平山幸一
    三宅邦子  妻・文子
    香川京子  二女・京子
    大坂志郎  三男・平山敬三

「私ら、ええほうですよ。本当にええほうですよ」

昭和二十八年の尾道。平山周吉ととみの老夫婦が東京にいる子供たちを訪ねるため旅支度中。近所の知り合いとの会話にも久しぶりに子供たちに会えるうれしさがにじみ出ています。東京に住んでいる長男長女と戦死した次男の未亡人紀子を訪ねる夫婦ですが、長男長女はそれそれ仕事と家庭を抱えていそがしく、悪気はないものの十分二人の相手をすることができません。そんな中、唯一紀子だけは親身に二人を気遣い、老夫婦も満足して尾道に帰っていくのですが、帰った早々老母危篤の報せが息子たちに届き・・・・。

今回は、ヒッチコックの海外特派員の予定でしたが、カカトさんのblog”私が観た映画”で”東京の宿”のレビューを見かけたことがきっかけとなり、常々気にはなっていた小津安二郎を観ることになりました。今日は図書館に本を返す予定があったので、視聴コーナーでこの”東京物語”を鑑賞(”東京の宿”はなかったんですよね。残念”)

オールド・ムービーファンといいながら、日本の映画は黒澤明監督少しくらいしか観ていなかったのですが、完全に食わず嫌いでしたね。同時代のアメリカ・ヨーロッパ映画と比べても遜色のないすばらしい作品だと思います。自分が日本人だからでしょうが、作中の風景や心情、出来事がすごく身近に感じられて、その点ではむしろ海外作品よりも心に響いてくるものがあります。

tokyomonogatari_2.jpg本作は、笠智衆と東山千栄子の演じる年老いた夫婦が主人公ですが、東山千栄子の笑顔がとにかくかわいい。苦労がありながら良い人生を歩んできた夫婦という風情が染み渡ってきます。物語は、久しぶりに子供たちに会うために東京を訪れる夫婦が感じる子供たちとの微妙な距離感というか”溝”がテーマですね。決して悪意はないが少し意地悪っぽい長女杉村晴子が好演で、もてなしの和菓子などの小道具をうまく使いながら、息子たちが感じる一種の”親と付き合ううとましさ”が表現されていきます。息子たちから厄介払いをかねて送り出された熱海の温泉宿で起きるアクシデントを経て、一気に老夫婦の居場所がなくなっていきます。お寺の脇に座ってどこに行くか相談する老夫婦の姿が印象的。結局、老母は死んだ次男の妻紀子の家に身を寄せます。そこで紀子から親身に気遣てもらい、そのやさしさが老母を癒していきます。


親と子供の関係ってなんでしょう。尾道に帰った後、一人になった老父笠智衆が原秀子演じる紀子に「実の息子たちよりも、いわば他人のあんたの方がよっぽど私らに優しくしてくれた」といいます。でも、決してこの父は(亡くなった母も)子供たちを恨んでいるのではないと思います。「世の中って、血を分けた子供たちよりも、他人のほうが優しいような冷たいものなのさ」というのがこの作品のメッセージだとは思えないのです。


子供は成長して、自分たちの仕事と家庭を持ち、かつて親が自分たちにしてくれたように、自分の家族を守るために全力で日常を生きていくことになります。劇中で原節子が言うとおり「誰だって自分の生活が一番大切になっていく」んですね。その時、子供たちはもう親の援助を必要としない一人前になっているわけであり、そのことをだれよりも良くわかっているのは子供たちを育ててきた”親自身”であるはずです。だから、たまに会ったのに迷惑がられたり邪険にされたりすると悲しかったり辛かったりはするけれども、だからといって必死で生活している子供たちに文句は言わない。息子たちの生活の邪魔をしないよう、ひっそりと尾道に帰っていきます。このあたりの親の気持ちがね、自分も人の親ですからどうにも泣けてくるのですよ。子供はこうやって親から離れていくんだよ。親の役目はこうやって終わっていくんだよと、そういうことが伝えられているのでしょうか。

tokyomonogatari_1.jpg実の息子たちとの”対比”としての紀子がすばらしいですね。原節子はにこやかな笑顔の中にも時折つらい心情を覗かせつつ絶妙の演技です。紀子の存在により、息子たちと両親の関係がくっきりと浮かび上がります。また、最後にほんの少しだけ老父笠智衆が不満をもらす(この姿がまた人間くさくていいのです)その相手としても重要な位置づけにあります。この紀子が慈愛にあふれた聖人のような完全無欠の存在ではなく、実は日々亡き夫のことを忘れていく自分に罪悪感を感じつつ、一人で生きていくことの不安を感じている生身の女であるというところなど、もう。。。ラストの笠智衆と原節子のシーンは永遠に記憶に残る名面でした。小津安二郎監督に脱帽いたしました。



ozu.jpg今回は本当に泣いてしまったので、
評価は星5つともうひとつ★★★★★+★


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posted by FROST at 18:17| 埼玉 ☁| Comment(8) | TrackBack(3) | OLD:日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
小津作品、ハマってしまいそうで観れないのですよ〜。
でもやっぱり観るべきですよねぇ。
Posted by かよちーの at 2005年11月19日 10:27
こんにちは。
私のブログを文中で紹介していただき、ありがとうございます。

レビュー読ませていただきました。私もこの映画は何度観ても本当に泣いてしまいます。ラストの笠智衆が誰もいない家でうちわをパタパタしてるシーンは号泣してしまったのを憶えています。

私は逆に黒沢明監督の映画を観た事ないんです。戦いの描写が怖いような気がして、それこそ食わず嫌いです。おすすめがありましたら教えてください(^^)

相互リンクこちらこそよろしくお願いします。
Posted by カカト at 2005年11月19日 11:19
>かよちーのさん
絶対にはまりますよ。じわーっと心にしみ込んでくるものがあるんですよね。次が観たい!
Posted by FROST at 2005年11月19日 17:12
>カカトさん
泣きそうになる映画は結構あるんですけど、ホントに泣ける映画はあんまりないです。黒澤監督は戦闘シーンの激しいのしか見たことがないので(^^;)、こちらも見直してみたいと思います。
Posted by FROST at 2005年11月19日 17:27
こんにちは。こちらにもTB致しました。
良い映画ですねえ。私は笠智衆が自分の亡き祖父に見えて仕方がなく、満点を進呈致します。最初に観たのは大昔ですが、何度観ても同じです。芸術的には「晩春」「麦秋」に落ちると思うのですが、好き嫌いで言えばこちらを推します。
それから、「明日は来らず」という戦前のハリウッド映画がこの作品の元ネタになっていますので、宜しければご覧ください。こちらもなかなかの秀作です。
Posted by オカピー at 2005年12月05日 00:50
オカピーさん、こんにちは。すっかりお返事コメントが遅くなってしまいましたm(__)m 東京物語はちょっと衝撃でしたねぇ。こんなに良い映画を今まで知らなかったかと思うともったいない。40代半ばという今の年齢がこの映画を見るちょうどいい頃合なのかもしれませんが。「明日は来たらず」はぜひ見てみようと思います。内容もさることながら、小津監督がどうアレンジしたのかもぜひ見たいとですね。
Posted by FROST at 2005年12月06日 15:19
やはり名作ですよね。
笠智衆と東山千栄子の老夫婦の後姿が映っただけで泣けてしまいます。
子供達も決して親が大事でない訳ではないけれどつい、自分達の生活に追われていて
ゆとりがなかったりする。
誰にでもありがちなことなんです。
悪意はないけど、みてて辛い。
その辺を暖かくも厳しい視線で描いていますね。小津監督は好きです。
綺麗な日本語のセリフですしね。
Posted by SESIRA at 2006年09月08日 22:46
>SESIRAさま
この作品、家族の崩壊がテーマという見方もあると思いますが、どうもそう思いたくない・・。SESIRAさんがおっしゃるように子供の世代のゆとりのなさというか、”悪意はないけど”という部分が重要なのではないかと思います。いい映画です。
Posted by FROST at 2006年09月10日 19:29
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映画評「東京物語」
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『東京物語』(映画)
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『東京物語』この映画を見て!
Excerpt: 第195回『東京物語』  今回紹介する作品は日本映画の最高傑作の一つであり、小津安二郎監督の代表作である『東京物語』です。 私は今回初めて本作品を鑑賞したのですが、映画としての完成度の高さと小津監督の..
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