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2006年06月02日

#0072『市民ケーン』オーソン・ウェルズ監督 1941年アメリカ

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監督: オーソン・ウェルズ Orson Welles
製作: オーソン・ウェルズ Orson Welles
脚本: ハーマン・J・マンキウィッツ Herman J. Mankiewicz
オーソン・ウェルズ Orson Welles
撮影: グレッグ・トーランド Gregg Toland
編集: ロバート・ワイズ Robert Wise
音楽: バーナード・ハーマン Bernard Herrmann
 
出演: オーソン・ウェルズ Orson Welles
ジョセフ・コットン Joseph Cotten
ドロシー・カミング
エヴェレット・スローン Everett Sloane
アグネス・ムーアヘッド Agnes Moorehead


あらすじ
米国を代表する新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが”バラのつぼみ”というなぞの言葉を残して死亡する。彼の伝記フィルムを編集する記者トンプソンは、今際の言葉”バラのつぼみ”のなぞを求めて、ケーンゆかりの人たちを尋ねる。後見人サッチャー(故人の日記)、忠実な元マネジャーのバーンスタイン、後に犬猿の仲となった昔日の親友リーランド、晩年の執事レイモンド、そして元愛人のスーザン。5人が語るケーンの真実とは、この世のすべてを手に入れたように見えて実は何一つ大切なものを守ることが出来なかった孤独な帝王の姿だった。そして、ラストシーンで明かされる”バラのつぼみ”の真実とは・・・。


みどころ(ちと長い)
よく言われる”パンフォーカス”の絶技や光と影の美しさ、激しい仰角のアプローチなどなど技術的秀逸の極み。すでにこの映画を見た事のある人にとってはいまさらヨタ解説を聞く必要もないでしょう。未見の人はとにかく一度ご覧あれ。”一見の価値あり”とその一言のみ献呈することといたします。

今回注目したのは映画本体のことではなく、モデルとなった実在の悪名高き新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト。

米国人で知らぬものはないといわれる新聞王ハーストは1863年の生まれ。映画でも「借金のカタに安く買い取った鉱山」とあるように、父親が安値で買った鉱山から4億ドルに上る銀が採れたため一夜にして大金持ちになりました。映画での父親は取るに足りない小物のように描かれるが、実際はかなりの大物でカリフォルニアの上院議員にもなった人物でした。

当時の4億ドルといえば、単純な円換算で約1500億円。当時の貨幣価値がどのくらいか良く知りませんが、かなり控えめに1000分の一くらいとしても150兆円・・・。ちなみに現在世界一の金持ちは言わずと知れたマイクロソフトのビル・ゲイツで、その資産額は約500億ドルといいますから、ざっと5兆円強。想像を絶する超ド級の金持ちだったことはまちがいありません。

1887年24歳の時に、父がこれまた借金のカタに取り上げた新聞社”サンフランシスコ・エグザミナー”の経営を引き継いぎます。サンフランシスコ・エグザミナー誌には「悪魔の辞典」のアンブローズ・ピアスやマーク・トェイン、「野生の呼び声」のジャック・ロンドンなどが執筆陣に加わっていたそうです。例のクロニクルから引き抜いた「最高の執筆陣」のモデルになっているかもしれませんね。ともあれ、これを皮切りに全米のメディアを買いあさり、42の日刊紙と13の雑誌8つの放送局を持つにいたって、ハーストはアメリカの世論を左右する存在となりました

中でも、1895年32歳でニューヨークの「ニューヨーク・モーニング・ジャーナル」誌を買収したときには、ライバルの「ニューヨーク・ワールド」誌との熾烈な発行部数争いを展開。ニューヨーク・ワールド誌のオーナーは、後にピューリッツァ賞を創設したジョーゼフ・ピューリッツァ(正真正銘のメディア王もこのときにはかなりあくどい記事を載せたようです)。ハーストはワールド誌を出し抜くために、憶測記事などは日常茶飯事、完全な記事捏造もあたりまえの煽情的な報道(イエロー・ジャーナリズム)を繰り返し、米西戦争の勃発(映画でも「ケーンは国を戦争に導いた」言われている)やマッキンリー大統領暗殺などの原因となったといわれています。

こうして、全米で泣く子も黙るイエロー・ジャーナリズムの魔王にのし上がったハーストは、彼に対するすべての攻撃を金とメディアの力でねじ伏せて天下無敵。その絶頂期、54歳のときに売れない踊り子マリオン・デイヴィスと恋に落ちます。映画でケーンの死の原因となった愛人スーザンのモデルはこのマリオン・デイヴィスでした。ケーンは”自分がばか者に見られるわけには行かない”という理由で、才能のないスーザンを強引にオペラの舞台に立たせます。観客や評論家に嘲笑されながらうたい続けねばならないスーザンは思い余って自殺を図りますが未遂。ベッドでケーンと話す彼女の表情はちょっと怖くなるほどのすさまじさでした。

実際のマリオンはオペラ歌手ではなく。映画女優として1917年(ハーストがマリオンに一目ぼれした年)から37年までの20年の間に45本の映画に主演します。彼女の為だけに作られた映画会社「コスモポリタン・プロダクション」に、キング・ヴィダーやラオール・ウォルシュなどの著名な監督も招いて次々と作品を制作し、全米のハースト配下のマスコミを使ってマリオンを絶賛します。しかし、45本の主演作は見事にすべて赤字。文献を見る限り、マリオンが自殺を図ることはもちろんノイローゼにすらなった気配はありませんので、彼女はスーザンをはるかに上回るしたたかな女であったようです。

「市民ケーン」の脚本を書いたマンキウィッツはマリオン・デイヴィスと知り合いであったらしく、ハーストには極秘で製作されていた「市民ケーン」はこのルートからハーストの耳に入ることになります。ちなみに、ケーンが残したなぞの言葉”バラのつぼみ”は、ハーストが飼っていた犬の名前だという説が一般的ですが、一説にはかわいいマリオンの”なに”をハーストが愛を込めて「バラのつぼみ」と呼んでいたといわれています。もしそれが本当なら、大々的に「バラのつぼみ」がフィーチャーされている「市民ケーン」にハーストは腰を抜かすほど驚いたと思われます。

「市民ケーン」が製作された1941年当時は、大恐慌を経てハーストの力も衰えていた時期ではあるものの、当時若干25歳だったウェルズが面と向かってハーストを題材にした映画を撮ったことには驚かされます。子供のころからほらとはったりでのし上がってきたウェルズが自身の創設による「マーキュリー劇団」を世に知らしめるための乾坤一擲の大勝負だったのでしょうか。

案の定「市民ケーン」はハースト帝国から大々的な攻撃を受けます。しかし、驚くべきことにウェルズは、ハーストの剣幕に腰の引けた製作会社RKOを訴訟までちらつかせて動かし、ついに上映までこぎつけます。ケーンとスーザンの描写が実際のハースト&マリオンと比べるとずいぶん人間的で悩める部分が強調されていると感じたのですが、これも最終的にハーストに上映を承知(黙認?)させるためのウェルズの計算であったのではないかなどと思ったりしてみます。

こうして上映された「市民ケーン」ですが、ハーストからの攻撃によって受けた傷は深く、結果は赤字。ウェルズもこの後映画制作に関する十分な影響力を発揮することはできず、どちらかというとアクの強さとトリッキーな行動が特徴の一種のイロ物として扱われるようになりました。

「市民ケーン」の映画作品としてのすばらしさが認識されるのは1951年のハーストの死後から。フランスにおける映画再評価の動きを待たなければなりませんでした。

個人的には
この映画はかなり好きですね。今回背景にある新聞のハーストのことも調べてみてなおさら興味深く感じました。映画製作の裏話やテーマ・舞台などのバックグラウンドをいろいろと調べてみたいと思います。映画よりもっと面白い物語に遭遇するかもしれませんよね。

ちなみに、ハーストとマリオンのスキャンダルにはまだまだ面白い話があるのですが、興味のある方はケネス・アンガーというアングラ監督が書いた「ハリウッド・バビロン」という本をどうぞ。古本でしか買えませんが、古書は結構出回っているようです。

おすすめ度
★★★★★

さて、次回は再度出直しということでヒッチコック作品へ。「めまい」に参ります。

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posted by FROST at 01:51| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(3) | OLD:アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
●いつも来ていただきありがとうございます。
6月1日から2日まで不具合がありましたがなんとか復旧できたみたいです。

●良かったら私のブログ内の『今月(6月)の常連様』にご紹介くださいませ。
・・・というかいつものアンケートです。(映画のブログでなくても全然OKなので)
Posted by moviemania1999 at 2006年06月03日 01:13
TBありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
Posted by 詩音魔 at 2006年11月15日 09:53
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